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Sound of Wind Mill

思うまま 感じるまま を そのまま 言の葉や 絵の葉に のせて 気ままに 飛ばしています
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奇妙な落し物-1
汗ばむ陽気。
思わずひたいの汗をハンカチで拭う。
「今日は 真夏日だな~」
ハンカチを鞄にしまうと また歩き出す。

すると前方に
痩せて 背のひょろ長い青年が
なにやら ぐるぐる キョロキョロ しながら立っていた。

暑くなると 変なのが増えて困るな・・・
私は 少し眉根を寄せると
そのまま真っ直ぐ 青年の立っている方へと歩を進めた。


青年は あいかわらず
立っている電信柱の 辺り一帯を 一心不乱に探している。
近づいてくる私には 目もくれない。

ははん さては コンタクトレンズを落としたか。
思わず老婆心から 声をかけた。
「コンタクトですか?」

青年は びっくりしたように ハッと顔を上げると
こちらを凝視した。
「いえ・・・その・・・」

その顔は 思っていたよりも 肌にはりがなく ふけて見えた。
そうかと思えば 目鼻立ちは 意外に童顔な印象を受ける とも言えなくもない。
こちらが 青年の年齢を あれこれ推測している間
青年は 何かを言いかけてはやめ 困ったようにもごもごと口ごもっている。

「あぁ、コンタクトを落とされたわけじゃないんですね」
なんだ ただの落とし物なら わざわざ 足元に気をつけることもないか


「落し物だったら 左の路地をつき当たった右に 交番がありますよ」
これ以上 関わることもないだろう。
一声かけて 通り過ぎようとした。

「あの!」

青年が 声を発した。
さきほどの もごもごとした声とは比べ物にならないほど
はっきりした声である。

「あの、交番って いわゆるお巡りさんのいる交番ですよね!?」
「・・はぁ・・そうですが・・」
他に交番と言われて何があったろうか。
すると 青年は
きっぱり 言い放った。

「その交番には 僕が探しているものは
 ・・絶対・・絶対に ありません!!」

「はぁ・・・」
初対面の青年に、そこまできつく断言されるとは 思ってもみなかった。
これはどうも 関わり合いにならないほうがよさそうだ。
「・・・そ、そうですか。では、どうも・・失礼・・」

電信柱と青年を通り過ぎようと、再び歩み始めた。

そのとたん
むんずと 腕をつかまれた。

「?!」

初対面のこの男に、腕をつかまれる筋合いが どこにあるというのだろう。
気色ばむより先に、驚きが勝ってしばし 呆然としていると

「僕は・・・確かに落としました!」
 この辺りで落としたんです!!
 でも・・・見つからないんです・・・」

「だから、交番に届いてるかも・・・」

「だから、それは、あり得ないんですよ!」
青年は、この暑さに似合わない青ざめた形相で 私を見つめた。


→奇妙な落し物-2 へ http://oneofwing.blog70.fc2.com/blog-entry-31.html

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奇妙な落し物-2
これは少し ややこしいことになりそうだ・・・
私の嫌な予感は 残念なことに 割と当たるのだ。

「・・・・えーと。
 ・・とりあえず、何を落とされたんですか?」

腕を掴んだまま 放そうとしない青年に向かって
とりあえず まずは一番重要であると思われる質問を投げかけてみた。


青年は 我に返ったように ハッとして
ようやく 私の腕を放した。

そして、目を伏せ
まるで この世が終わるかのようなため息を ひとつ ついた。

「・・・・・・なまえです・・・」

「え?!」

よく聞こえなかったのと、理解を超えていたので
思わず 再び聞き返す。

「何を落とされたんですって?!」

「だから・・・」
青年は 相変わらず青ざめた顔を 憎々しげにゆがめて
半ば 逆ギレ気味に 繰り返す。

「なまえです・・・名前!」


→奇妙な落し物-3 へ http://oneofwing.blog70.fc2.com/blog-entry-32.html
→奇妙な落し物を最初から読む http://oneofwing.blog70.fc2.com/blog-entry-29.html

奇妙な落し物-3
「・・・・・・・・」

とりあえず 人はあまりに思いがけないことが起こった場合
しばし固まる性質が あるようである。
私のそのときの状態が まさに それであった。

「なまえ・・・名前・・・」
頭の中をかけめぐるハテナマークと格闘しながら
必死に考えを整理していく。

「・・・・冗談・・か何か・・でしょうか?」
とりあえず 一番可能性のありそうな「おち」をつけてみる。

「冗談だったら よかったんですけどねぇ・・」
青年は ふっと 自嘲の笑いをもらした。
その後 長いため息をつくと 遠い目をした。


「・・・いや その・・お役にたてず・・・」
にじんでくる汗を拭きつつ 言葉を濁す。
なんで あのとき 声をかけてしまったんだろう。
私は 足を止めたことを 思いっきり後悔していた。
そのまま通り過ぎていれば こんな おかしな人と関わることもなかったのに。


「落し物をした僕に気づいて 声をかけてくれたあなたなら と思ったんですがねぇ・・」
青年は 遠い目のまま 少々がっかりした様子で 鞄を抱え直した。

「信じてもらえないんじゃ しょうがないですよね」

青年は いったん背筋を伸ばすと
再び 電信柱の辺りを探し始めた。
「所詮 落とした人間にしか わからないものですから。
 期待をする方が 非常識というもんだ」


「・・・・・・・」
まさに そのとおり
期待する方が 非常識である。
しかし、こうも厭世的なものの言い方をされると
こちらとしても 黙ってはいられない。

「じゃあ、お聞きしますが
 あなたが 名前を落としたって証拠は 一体どこにあるんですか?!」

さあ、これでもう 答えられまい。
心の中で にんまり してやったりである。

すると
いけしゃあしゃあと 青年は答えた。

「では、あなた
 僕の名前 わかりますか?
 わからないでしょう?
 ほら やっぱり 僕の名前 行方不明じゃないですか」



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奇妙な落し物-4
「う・・・・」

思わず 言葉に詰まる。
確かに 私は彼の名前がわからない。
でも だからといって 果たしてそれが
彼が名前を落とした という証拠になるんだろうか・・・

だが 私が 彼の名前をわからない以上 
彼が名前を落としていない という保障もない。


なんだか 頭が痛くなってきた。
こんな禅問答を 続けていても仕方がない。
この際 もう どっちでもいいや。
とりあえず このやっかい者を 誰か他の人に押しつけてこよう。

「ああ じゃあ まあ 落としたとしてですね・・・
 とりあえず 落としたら まず 交番ですよ!」

青年は いぶかしげに私を見つめる。

「交番に行ったところで 僕の名前が届いてるはずないでしょう?!」

「もしかしたらってことが あるかもしれないじゃないですか!
 それに なんか 手がかりが 見つかるかもしれませんよ。」

私は 青年の背中を押して、左の路地へと向かわせた。
青年は 怪訝な顔をして少し抵抗したが
そのうち しぶしぶ 坂を登り始めた。


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奇妙な落し物-5

細い路地には 塀越しに 鬱蒼と茂った緑が影を落としていた。
その影が 立ち込める熱気を 少し 和らげていた。

二人は ゆっくりと路地を あがっていく。
一人は めんどくさそうな顔で ハンカチで汗を拭いている。
もう一人は 憮然とした顔で 
時折振り返っては 後ろの電信柱の辺りを気にしている。


ゆるい坂を登りきったら、すぐ右手に小さな交番が見えた。
中には 一人 人影が見える。
おそらく ここの交番の巡査だろう。

「すいません」

交番の重いガラス戸を 押し開けようとしていると 
巡査が すぐ立ち上がって 扉を開けるのを手伝ってくれた。

「どうも すみません」
「いえいえ」

きわめて人の良さそうな 初老の巡査である。

「まあ とりあえず どうぞ」

と二つならんだパイプ椅子をすすめられた。
二人は並んでパイプ椅子に腰をかける。


私たちの様子から 火急の用でないことを察したのか
巡査は 奥の流しへと向かう。

「外は暑かったでしょう」


戻ってきた巡査は

「まあ どうぞ」

と言って
ガラスのコップに 冷蔵庫で冷やした麦茶を入れてくれた。

冷たい麦茶は 乾いた喉を潤し
気持ちまでを ひんやりと落ち着かせてくれる。


「さて、それで どうしましたか?」

私たち二人が麦茶を飲み干すのを待って 巡査は尋ねた。



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奇妙な落し物-6

初老の巡査は
半身を乗り出し、机に両腕をついて 指を組んだ状態で
こちらが話し出すのを待っている。

この人ならちゃんと話を聞いてくれそうだ。
とりあえず 私は 少し安心した。

しかし、なんと切り出したらいいものか・・・
青年の方を ちらりと見た。
青年は 自らここへ来たわけではないというオーラを放って
椅子の背にもたれて 知らん顔を決め込んでいる。


「えーと・・ですねぇ・・・」
歯切れ悪く切り出したものの なんと続けたらいいものやら。

「えーと どうも この方が 落し物をしたらしいんですよ・・」
そう言って 青年の方を もう一度ちらりと見た。
あいかわらず 青年が言葉を発する気配はないようだ。

「落し物ですか?」
巡査が 体を起こした。
座っている机の引き出しを開けて ごそごそ中を探りだす。

「あー 違うんです!」

私が 巡査をさえぎると
そらみたことかと これみよがしに 青年がため息をつく

「落し物と言いましても・・・」
やはり いざ 言葉にするとなると 言いにくいものである。

「その・・『名前』を落とされたそうなんです・・・」


「・・・・・・・」


沈黙が痛い。
巡査は ぴたりと 引き出しを探る手を止めた。

しばらくの間 沈黙が 場を支配する。


「『お名前』・・ですか?」
巡査が 確かめるように ゆっくりと尋ねる。

「・・・らしいんですよ・・・

 こちらには届いて・・ません・・よねぇ?」

自分で尋ねていて嫌になるほど 間の抜けた質問だ・・・


巡査はしばらく
目を白黒させていたが
引き出しをぱたんとしめると言った。

「今のところ お名前の落し物はありませんねぇ・・」




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奇妙な落し物-7

再び沈黙が訪れた。


「・・・・・・」


最初に沈黙を破ったのは 巡査だった。

「・・・とりあえず 落し物なんですよねぇ」
と言って、引き出しから 書類とボールペンを取り出す。

青年に それらを手渡しながら
記入するように促した。


青年は ボールペンのフタをとると
書類に記入しようとした。

記入しようとした。

記入しようとした。

したものの 最初の欄で ペンが止まる。


「 氏 名 」


そもそも これが記入できた時点で
この書類に用は無い。

巡査もそのことに気づいたのか
あわてて書類を回収する。


再び沈黙が広がる。


「困りましたねぇ」

巡査がため息をもらす。

やはり 交番でも どうにもならなかったか。


そうなることは 薄々わかってはいたものの
私の目的は そこにはない。

「では そういうことで 後はよろしくお願いします」

やっかいごとを押し付ける相手が見つかった以上
長居は無用である。

笑顔で巡査に会釈し
パイプ椅子から腰を浮かす。

困惑した表情で見返す巡査。
申し訳ないとは思うが
これ以上ややこしいことに 巻き込まれることは御免だ。
目線をそらすと
睨みつけてくる青年が見えた。
見捨てる気か とでも言いたいのだろう。


「あなたは 名前を落とされた現場を見ていらっしゃるんですよね?」

巡査が尋ねた。

「あ・・はい。」

「では、現場を検証するのに立ち会っていただけますね?」

巡査は、年を重ねた皺をさらに深くして にっこり微笑んだ。



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